ここの記憶を閉じたのは2009年、桜の咲き始める前だった。
埼玉県の北部にやってきて、早一年が経過。
とにかく新しい環境・職務に慣れるため突き進んできた。
しかし忘れていた訳ではない。
敢えて、抑え、黙殺してきた。
野を駆け、海辺を歩き、1匹の魚を追い求めるあの衝動
しかしそれを解き放つ切欠が見当たらなかった。
そんな中、新たな職場で同じ衝動を持つ者と出会った。
休憩時間のたびに煙草を吸いながら過去の話に花が咲く。
あくまでも過去の話。
そんな中、2月に横浜でフィッシングショーが開かれるという。
何気なく行って見ようという話になり、消化できなかった代休を
使い横浜へ。
久しぶり、というか懐かしいとさえ思えるこの感覚。

様々なブースを巡るうちに次第に熱気を帯びてくる。
その熱気が頂点を迎える。
私が唯一会ってみたいと思っていた釣師が眼前にいた。

新家邦紹氏
何を喋ればいいのか分からなくなり、新製品の話を伺ってみた。
丁寧に答えてくださり、快くサインも頂けた。
これが凍てついた衝動を氷解するトリガーだったのかもしれない。
とても簡単なことだった。
家に帰るなり、1年前のまま梱包材に巻かれたロッドを取り出した。
ダンボールに入ったままのリールを片っ端から出してオイルを挿した。
今まで見なかった地図を取り出し、ルートを考えた。
そして私はまた歩き始める。
どれだけ周囲が変わっても変わらないもののために。
野を駆け、海辺を歩き、1匹の魚を追い求めるために。